・ n.1 ジョヴァン・バッティスタ・モロー二展・ミラノ 作品細部・絵の背景

先月末にミラノに「ジョバン・バッティスタ・モロー二展」を観に
行って来ました。

1-DSC02766_01_GF.jpg


とにもかくにも、余りにも圧倒的な、今迄これ程の熱中感を
覚えた事の無い展覧会で、

写真は一応整理したものの、肖像画が殆んど、他に宗教画、と
いう、言葉のみで言うと地味な展覧会で、

が、実質内容は上記の通り、何とも濃厚な展覧会でしたので、

多分日本では公開された事の無い画家の、しかも
何点かの作品を除き「ほぼ黒ずくめの衣装の肖像画」でして、


どの様にご案内したら良い物か、絵の背景、肖像画の主など、
あれこれ私自身が知る為にも読みだすと、つぎつぎとで・・、

どうぞ、パッと見の地味さを通り抜け、少しでも画家の真実、
技量、素晴らしさを知って頂きたく

じっくりとご覧下さる様お願い致します!!


上で見て頂いた会場、ガッレリーア・ディタリアの入り口に掛かる
細長い絵のポスター、

一番左は、shinkaiがこれを見たくて行った「仕立て師」ですが、
右の2枚は、実はご夫婦、と知った事などなど、も含め、
あれこれご説明して行きたいと思います。


会場、展示の様子、についての予告はこちらをどうぞ。

元々は銀行だった建物の会場で、小さめの部屋もありましたが、
広さ、高さも悠然たるもので、はい、

2-DSC02769_01_GF.jpg

3-DSC02770_01_GF.jpg



こちらは、モロー二の師匠であった、通称モレット・Morettoと
(1948頃-1554)呼ばれたブレーシャの画家の作品

4-DSC02767_01_GF.jpg

5-1-DSC02768_01_GF.jpg

見ると実際傾向が良く似ており、また同じ主題で描いている
宗教画が2点展示されておりましたが、

並べてみると、やはり違う、モロー二の方が主題追及が深く、
余分を省いているなぁ、と感じました。



会場の様子をサイト写真から。

5-2-25 153752_GF.jpg



こちらは主展示の隣の部屋にあった作品で、横の作品名などを
撮っておらず、

6-1-DSC02776_01_GF.jpg


そうなんです、この後にあれこれ見始めてすぐ気が付いた
モロー二の作品の凄さに至る一過程というか、

この絵では背景の描き方で、白い襟のレース飾りは、既に。 
これについては後程。



そして、何、どうしたの?と思った絵が、なんとティツィアーノ、はい、
ティツアーノ・ヴェチェッリオの作品で、米のフィラデルフィア美術館蔵。

6-2-DSC02773_01_GF.jpg


大変珍しい作品とあり、フィリッポ・アルキント・Filippo Archinto、
最終的にはミラノの大司教になられた方。

が、当時の宗教改革の余波から宗教改革者とみられ、ミラノではなく
ベルガモに居住せざるを得ず、1558年ベルガモで亡くなったと。

絵の制昨年は1554-56年とみられ、ベルガモ在住の時なので、
その時の世情を考慮し、という事からでしょうか?!



続いての2点は、肖像の依頼主の名を撮っておらず・・。

7-DSC02771_02_GF.jpg

8-DSC02772_01_GF.jpg



驚いたのがこの作品。1566頃の作 バルトロメーオ・コッレオーニ
Bartoromeo Colleoni(1395-1475) 

9-DSC02778_02_GF.jpg

10-1-DSC02785_01_GF.jpg



傭兵隊長としても名高く、ヴェネツィアのサンティ・ジョヴァンニ・エ・
パオロ広場に、ダ・ヴィンチの師匠ヴェロッキオ作の騎馬像がある方。

10-2-Bartolomeo_Colleoni_Verrocchio_GF.jpg


ベルガモ一帯の領主であり、有名なコッレオーニ礼拝堂もベルガモの
サンタ・マリーア・マッジョーレ聖堂の横に。


で、この肖像の顔が検索するとパッと出るので、えっ、なんで?!と。
はぁ、描いたのがモロー二、とは知らずのまま過ごしていた訳でして。

下に見えるラテン語献辞は、意味が分からずのまま、ここに。
  リリジーは私たちに寛大であることを望んでいます
  彼は敬虔さを崇拝する人です、今彼は一つの愛を崇拝しています



ベルガモのご案内はこちらに。

n.3 ベルガモ行き 世界遺産の街 ・ S.M.マッジョーレ聖堂~下の街に

n.2 ベルガモ行き 世界遺産の街 ・ まぐさ市場~コッレオーニ広場
https://www.italiashiho.site/archives/20190331-1.html

n.1 ベルガモ行き 世界遺産の街 ・ ロッカ、ベルガモ歴史博物館
https://www.italiashiho.site/archives/20190318-1.html



そしてこの肖像は、なんとなしにふっと笑みを浮かべている男性、と
思って眺めていたのですが、

11-DSC02780_01_GF.jpg



こうして見ると、じっとこちらを見つめている眼である事が分かり!

12-DSC02781_01_GF.jpg

肖像は、ラテラノ大聖堂参事会員バジリオ・ザンキ・Basilio Zanchi
1558年頃

参事会員、というのは、司教を補佐もしくは代行する聖職者の組織
の事だそうで、やはり髪型どおり、宗教界に籍を置く方ですね。



会場に入り、並んだ肖像画を見始めてすぐ気が付いたのは、
モロー二の作品の凄さは、物凄い熱中さが溢れており、ふっと見始めても
その虜になる凄い力を持っており、

他によく見る、こちらを真っすぐ眺める今迄の肖像とは違い、
ふっと力を抜いた姿の様でも、なぜこんなに?と思う程、
取り付かれるのですね。


それが何枚か見だした時に、襟からはみ出す白いシャツや、
この方の上着の襟に見える細かい細かい刺繍の見事さ、美しさが
見逃せないほどに目につき、

多分黒一色の衣装、当時イタリア上流社会に流行していた
スペイン風の黒い衣装の、この素晴らしく細かいシャツの襟刺繍が、
単純さを失くし、わぁ~という程に力を発揮し、

勿論人物の顔表現の見事さ、衣装を描き分かる技量の凄さと共に
絵の迫力を持ち上げ、見る人を惹きつけるのだろうと!


正直言い、これ程凄いとは思わずに出かけ、見たい絵は2,3点、と
思っていたのがなんとなんと、行きつ戻りつ、見惚れ続けたのでした。


大体開かれる展覧会は、マスコミなどの前評判が素晴らしく、
行って見たら、案外そうでもなかったなぁ、という作品が多いのは、
皆さんも良くお判りでしょう?

が、今回のモロー二展は、本当に、真実、本物だと思った展覧会でした。



こちらは肖像主の名を撮っておらずで、なんと凄いなぁ、と見たのが、

13-DSC02786_01_GF.jpg


こちら机の上に広げられた書類の描写で・・!

14-1-DSC02787_01_GF.jpg



で、ついでにご覧頂きたいのが、モデルが座っている椅子で、

この写真にはサヴォナローラ風、と書かれているものの、
ダンテ風とあり、どちらも同じ様式なのだそうで、

14-2-Meluzzi sedie alla Savonarola _1__GF.jpg


モロー二の絵の人物、座っている人物像には、同じ椅子が登場し、
小物も同じものが登場、背景も良く見るとアトリエの一部に
設えられた一郭であると想像でき、

肖像依頼主は、自分の衣装でアトリエにやって来て、
後はモロー二のアトリエの椅子に座ったり、窓辺に立ったり
したのだろうな、と想像し、別の楽しみも味わいました。
  


見たいと願っていた肖像、1567年作、単純に「29歳の肖像」

15-DSC02788_01_GF.jpg


まだまだ澄んだ目をした優しそうな若い男性で、まっすぐこちらを
見つめ、

白い刺繍された襟のフリルが全体を引き締めるアクセントとなり・・。

16-DSC02789_01_GF.jpg



参事会員 ピエトロ・ブレシャーニ・Pietro Bresciani氏 1564頃

17-DSC02791_01_GF.jpg



こちらも、白い襟、白髭の表現も見事ですが、

18-DSC02793_01_GF.jpg



上手く撮れておらず、こういう時は家に戻って後、馬鹿が!と
思うのですが、

この手が凄いなぁ!と、欲しかった1枚なのでした。

19-DSC02792_01_GF.jpg



手が凄いなぁ!と感嘆した絵はもう1枚あり、いや、他にもですが、

まず是非画家ジョバン・バッティスタ・モロー二を知って頂きたく、
ティツィアーノの言葉として残っている逸話のご紹介を。

ティツィアーノは、彼の才能を、肖像画においても更に特異で
ユニークな点を非常に尊敬しており、

ベルガモは1428年からヴェネツィア共和国の統治の下にあったので、

ヴェネツィアからベルガモに移る行政長官や、学長や総長にも、
彼らの真の自然な肖像画がモロー二によって描かれるでしょう、と
言っていたそうで。

ベルガモのアルバーニ家出身の紳士がヴェネツィアでティツィアーノに
肖像を描いて貰いに行き、どこの出身かと聞かれ、ベルガモ出身と
答えると、

ベルガモであなたのモロー二から得られる肖像画よりも、私から
より良い肖像画を得られると信じているのか、

彼の作品は私のものより価値があり、より特異なものである事を
保証するので、彼に予約して下さい、と。

こうしてベルガモに戻り、モロー二にティツィアーノの言葉を伝え、
現在にも残っているものと。


で、こちら、アルバーニ家の貴族の肖像、1568-70年 として
残りますが、ジョヴァンニ・ジェローラモ・アルバーニ
Giovanni Gerolamo Albani であろうと言われ、(別の説もあると)

20-DSC02795_01_GF.jpg


21-1-DSC02796_01_01_GF.jpg

少しブレがあり、失礼を。


手と、毛皮の質感が何とも素晴らしかったのがブレ、
こちらはサイトから写真を拝借です。

21-2-Gabriele-Albani-e17044 - Copia_GF.jpg


描かれた年代からして、息子の1人にしては若すぎ、胸に付けた
十字架にサン・マルコのライオンを象った勲章が、
黄金の騎士の爵位に相当するものと。



描いた年が問題となるのは、1563年4月1日、ベルガモの
サンタ・マリーア・マッジョーレ聖堂において、
長年のベルガモ貴族間の確執があったアルバーノ家の息子達の
雇った刺客が、

相手のブレンブラーティ家のアキーレ・Achille Brembratiを、
仲直りをと呼び出してのミサの最中に、火縄銃と短銃で殺害。

息子達は即遠方に逃げ、父親のジョヴァンニ・ジェローラモも
逮捕され、無実を主張したものの、
家族全員がベルガモから追放宣告を出されます。


shinkaiは聖堂内で火縄銃を使った、というのに驚き、火種を持って
教会内に? どうやって? 撃つのに時間がかかるだろうに、とか、
火縄銃の仕組みや、実際に見せる様子のヴィデオを探したり・・!

16世紀ですから、銃もかなり進んでおり、既にモスケット銃に
移行していたらしい、とも分かりましたぁ。


あれこれ読み分かった事は、いわば騙し討ちの形で、殺害された
アキーレ・ブレンブラーティは、長男と思われる逃げたもう1人の
兄弟と違い、大変に温和で良い人柄だったそうで、

なおの事、この事件はベルガモの人々の驚愕と憎しみを誘い、

アルバーニ家に親しく出入りしていたモロー二も憎しみを買い、
彼自身も生まれ故郷のアルビーノに戻らざるを得なかったと。


で、捕まった刺客たち12名、いわば雑魚達はヴェネツィアで見せしめの
酷い処刑を受けたものの、 (拷問、処刑斬首、四分の一、と)

家長のジョヴァンニ・ジェローラモも含め、逃げている息子達を
かくまうイタリア、フランス、スペインの各方面からの援助、
ヴェネツィア共和国への様々な諭し、・・ええと、なんという言葉が
良いのか、即出ませんが・・、


と、かってベルガモで厳しい異端審判を行っている時、ヴェネツィアの
秘密警察員に襲われた司教を援け、自分の領地の要塞に隠し、

後にローマに逃したアントニオ・ギスリエーリAntonio Ghislieriが、
なんと教皇ピオ5世として選出される事態となり!

Bartolomeo_Passarotti_-_Pius_V_GF_1.jpg


かっての命の恩人であるジョヴァンニ・ジェローラモを
遠島からイタリアはアンコーナ領の総督に任命、1566年、

続いて枢機卿に1570年に任命という事に。各息子達も安泰無事に。

出されていた判決も無効となり、ブレンブラーティ家も
イヤでも従わざるを得ない状況に、つまり泣き寝入りに・・。


と、長々と様子を書きましたのも、

彼が1570年に枢機卿となっての肖像画であれば、彼も朱赤の衣装と
なっていたでしょうし、という事なのですが、


これはティツィアーノ描く、パオロ3世の肖像 1543年

22-Portrait_of_Pope_Paul_III_Farnese_(by_Titian)_-_National_Museum_of_Capodimonte - Copia_GF.jpg

手が似ている、という説明もありましたので。



1568年モロー二はベルガモに、おそらく肖像画を描く為に
呼び戻され、彼はその招待に応じ、
おそらく彼の最高傑作の肖像画の1枚と言える作品を制作したと。

つまり、描きかけていたままのものを仕上げたのか、
新しく描いたのかは特定しておりませんが、

多分ティツィアーノが言ったモロー二に対する評を受け止め、
肖像画を依頼され描き始め、その後1563年の事件が起こり、

その儘になっていた肖像画について、ヴェネツィア政府に
伝えた事からの事ではないかと。

で、描きかけとはいえ、本人を前にせずに、あれ程の肖像画を
仕上げる事が出来る、というのは、凄い技量ではありませんか?!

デッサンがあったとしても、現在の様に写真も何もない時代ですし、
そんな事をあれこれ考え、

絵を前にして圧倒的な力を感じた事を思い出し、凄いなぁ!! 
とばかりを思っています。


会場内の様子を最後に。

23-Moroni_4704_GF.jpg


これでモロー二展のご紹介 n.1 を終わりとします。

重い話も続き、shinkaiもちょっと疲れましたが、多分皆さんもで、

次回は、女性像も、仕立て師の像もで、色付きが多くなりますので、
ははは、お楽しみにお願い致しま~す。


*****

当ブログご訪問、有難うございます!
見たよ! の応援クリックも宜しくお願い致しま~す!

    にほんブログ村  

    s2019誕生日 - Copia_01.JPG


*****
  
色鉛筆+水彩画ブログには、
カナダでは!!  興味深いユニークな国カナダの写真30選
をアップしています。 ご訪問よろしくどうぞ!


*****
   
記録庫ブログは、お陰様で無事引っ越しを終えています
 
今後ともの皆様のご訪問を、お待ち致しておりま~す!

この記事へのコメント