・ 現在プラド博物館で新公開の カラヴァッジョ ・ 驚きの新発見作

この5月28日から、スペインはマドリッドのプラド博物館で公開中の、
カラヴァッジョの、いわば新作、新発見の作品、

男をみよ・エッケ・ホモ・Ecce Homo」

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いつもニュースに遅れる私めは、この作品について5月8日付け
のサイト記事で知った所で、

この作品を修復されたイタリア人修復家アンドレア・チプリアーニ氏・
Andrea Cipriani、フィレンツェ、50歳、

私はカラヴァッジョを修復しました。キリストとピラトの後ろには彼の弟子チェッコがいます
Ho restaurato Caravaggio. Dietro Cristo e Pilato c’è il suo allievo Cecco
で読んだのでしたが、

写真がまだ発表できない時期だったのか、光った状態のもので、

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ですが、修復者の喜び、というのか、まず最初に偉大な画家の
作品を独り占めして眺められる様子が述べられており、

最も美しい瞬間は、夕方気が付くと1人で彼の前にいた時で、

カラヴァッジョも、この作品を描いている時、キャンバスに向かい、

色、キリストの光を前に、同じ感情を抱いたのではないかと思い、

自分が恵まれていると(特権者だと)感じました。


素晴らしく素敵な言葉で、修復者でなければ持てない感情ですよね。

現在はフィレンツェにスタディオを持ち、30年ものキャリアを
積まれているチプリアーノ氏は、トスカーナ州の東南の端近い、
ラツィオ、ウンブリア州に近いサン・カッシアーノ・デイ・バーニの出身。

古典絵画の修復で有名な方だそうで、数年前、彼の人生とキャリアを
形作る大事業を依頼され、
つまり今回のこのカラヴァッジョ作の「エッケ・ホモ」の修復でした。

この作品についてはつい最近までかなり秘密にされていた様子で、
というのも信じられない様な、絵の発見時の様子の様々があり、
いわば美術史上における近代最大の発見だったと言えそうなのですね。

この写真は修復前のもので、修復者の説明として、
手前の男ピラートの衣服の肩と襞、奥に見える少年の肩と袖が
消えていたのをあげておられたのが見られます。

修復により、再びその形状が現れ、色彩の価値が全て、絵画の
劇的表現に現れたのだそうで。

絵のタイトル「エッケ・ホモ」とはラテン語で、「見よ、この男」の意で、
ヨハネの福音書にある、ローマ総督ピラト(ポンティウス)が、
この言葉で、キリストを人々の嘲笑に晒したのだそうで。

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この作品が描かれたのは、1605-1609年、カラヴァッジョがナポリを
訪れた2回のうちで、
そのまま時期にスペインに持ち込まれ、スペイン王フェリペ4世の
個人コレクションに記載があったという、

カラヴァッジョの既知の作品約60点のうちの1点


それがなんと、世の光を浴びたのは2021年4月8日に、スペインの
持ち主、古い家柄の所有者から1500エウロ!!で、

ジュセペ・デ・リベーラ・ホセ・デ・リーベラ(同人)の
周辺画家の作と言われ、

ホセ・デ・リベーラはスペイン人ですがナポリで終生活躍した、
というので、代々の一家はそう思い、そう伝えられていたのかも。


が、マドリッドの有名なオークッション・アンソレナ・Ansorenaに
出品されるとカタログに掲載されたのを知り、

プラド博物館は即作品の価値を知り、スペイン文化省に警告、そして
文化省は直ちに、この作品は美術展以外にスペイン国外に出る事は
出来ないと宣言。

プラド博物館館長は、その数十年の美術史における偉大な
再発見の一つと考えられるこの作品の紹介を開始し、
その真贋に関し、前例のない素早い合意を得たのだそうで。


その作品が、1500エウロから、という低価格での出品とは!!

新しく真の画家名が提示された時、2世紀に渡って所有していた
ペレス・デ・カストロ・メンデス家・Pérez de Castro Méndezは
競売から取り下げ、

科学的研究、修復、販売管理をコルナギ美術館委託。


こちら3枚組写真は、修復前から修復後への変容の様子と。

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で、スペイン在住の匿名英国人が購入、おそらく3600万エウロで
あったろうと言われ、

ギャラリー・コルナギ・Colnaghiというのは、現在プラド博物館と
共同で展覧会を行っており、今回のカラヴァッジョの絵も3年間
保管していたギャラリーで、

ここのエグゼクティブ・ディレクター、ホルヘ・コル・Jorge Coll氏に
よると、国際市場での価格は「1億ユーロを遥かに超えるだろう」と。

が、たくさん応募された全世界からのオファーはそのまま消え、

なぜスペイン国家が、マドリッド市関係が、この様な重要な作品を
入手しなかったのか、という疑問もあるようですが・・!

案外スペインから絵が海外に買い取られず、展覧会での外出は
別とし、ちゃんとした所有者がスペインに在住し、
レンタルできる方が良い、と考えたのかな、とも・・。


これまでのところ、芸術作品に対してスペイン国が支払った最高額は、
現在プラド美術館にあるゴヤの「チンチョン伯爵夫人」に支払われた
40億ペセタ(約2400万ユーロ)だったそうで。

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絵が世間に公表されて以来3年間、コルナギ美術館に保管され、
と共に、様々な研究が行われ、修復も勿論で、


その専門家たちの仕事についてはこちらのサイトに詳細が
ありますので、どうぞ。

Al Prado il Caravaggio messo all’asta per 1.500 euro


で新しい所有者は、一般の方にご覧頂ける様にと、この作品を
プラド美術館に9カ月間貸し出し、

この5月28日から、はい、4日ほど前から始まっており、
10月13日迄展示され、

現在は、濃い色の壁と、典型的なカラヴァッジョ風の明暗を
強調できる小さな部屋に単独で展示されているそう。

ご覧の様に、右が8A室、左が7A室で、

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左の7A室には、プラドで唯一のカラヴァッジョの
「ダヴィデとゴリアテの頭」が展示されているのだそうで。


こちらですが、ダヴィデが何をしているのかと思いましたら、

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紐で、ゴリアテの髪を彼の背中の革の防具に括りつけている、
と知りました。



修復師のチプリアーノ氏の言葉には、

カラヴァッジョは絵を描くのではなく、筆の先端でキャンバスに
主要な構成線を刻み、

肉眼でも、人物や目の周囲の彫刻の線を見る事が出来、

このテクニックを使ったのは彼だけであり、彼の特徴だと
考えられていて、

私が新たな解釈を加えたもう一つのディテールは光、で、

通常、我々は非常に安定した強いライトを使用して
作業しますが、

彼のキャンバスでは、光を暗くすればするほど、絵は
より美しくなりました。

それは予想外の演劇性を吸収し、
薄暗い所で観察するのが良いと思います。

そして、そこから傑作に生まれ変わります。 と。



専門家、プロの仕事をされている方の言葉はいつもすらっと
しつつも宝の山で、今回も成程なぁ、と。

私めはカラヴァッジョは凄いと思いつつも、どこか苦手で、
好きとは考えられなかったのですが、

それはそれとして、やはり見るべき点を指摘して頂いた様で有難く、
チャンスを待とうと思う気持ちが出来ました。


今回の絵の発見に伴い、クリスティーナ・テルザーギ・Cristina Terzaghi
美術史家、ローマ・トゥレ大学教授の率いる17世紀板来絵画の
一連の専門家たちは、

当初はただの絵画であったことを裏付ける文書や絵画の証拠を
追跡する事に専念し、

コルナギ・ギャラリーの役割も重要で、修復の促進、作品保管、

キャンバス上の診断研究は、イタリアの専門家、原子力技術者の
クラウディオ・ファルクッチ氏によっても行われ、

テルザーギ氏によると、「この絵があらゆる予想を超え、世界中に
不意打ちと驚きを呼び起こした事を忘れてはなりません。」

と、多数の研究者による多数の研究、診断による、その出所と
信頼性を認定する仕事の確認を。

そして「洗浄と診断テストにより、特に交差した筆運びの存在により、
このキャンバスとカラヴァッジョの絵画技法の互換性が疑いも無く
明らかになった」と結論付けを。


絵画は1605年から1609年にかけ、カラヴァッジョがナポリに
2回滞在したうちの1回に描いたもので、
(学者には、その年代について同意していない人も)

1657年にカストリージョ伯爵の貨物と共のマドリッドに運ばれ、
1666年この絵画はフェリペ4世の資産目録に掲載され、

18世紀末から19世紀初頭までそこに保管されていたと考えられ、
カール4世が大臣ゴドイへの贈り物として与え、その貪欲な芸術愛好家
の終わりに、コレクションはサン・フェルナンド王立アカデミーに入り、

19世紀にこの絵画は、現在アロンソ・カノ・Alonso Canoの作
とされる聖画との交換後に、スペインの収集家で外交官である
エバリスト・ペレス・デ・カストロによって、アカデミーから入手。

それ以来、この絵はおそらく匿名の大した価値はないと考えられ、
ペレス・デ・カストロの相続人、つまり建築家、デザイナー、
芸術家を含む家族内で世代から世代へと受け継がれ、

つまり3年前のオークション未遂に至るまで、と。


それにしても、それにしても、2世紀間の相続のうちに、誰か一人位、
目の確かな人はいなかったのだろうか、と?!

少なくとも鑑定とか、多少でも頭が働く人はおられなかったのか、と。

まぁね、そのおかげで絵が世間の陽を浴びたので良かったですが、

癇癪持ちだったろうカラヴァッジョが忍を切らし、いい加減にせい、と
オークッションに出させた方が良いかも、と思ったのかな、と
可笑しくなりますが。

という様な一連の事件シリーズ物の様な顛末となりましたが、はは、

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プラドでの展示は、上記の通り、10月13日迄8A室、での
展示の後、隣の「ダヴィデとゴリアテ」のある部屋に移され、

カラヴァッジョ同士の並びとなり、またヨーロッパの自然主義絵画との
視覚的対話を促す事に。


そして最後のニュースは、

2024年12月24日から始まるイタリア・ローマでのジュビレオ・聖年
に参加というか、展示がほぼ間違いないとみられ、

2025年12月14日迄の1年間、カラヴァッジョの作品は御里帰りを。
バルベリーニ宮での展示と。


修復後の作品は、赤い布の色がひときわ目を引き、

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背後で布を持つ、口を開けた青年が、彼の愛弟子チェッコ、と知り、
彼の愛情も感じたのでした。

チェッコ、についてはこちらに。
チェッコ・デル・カラヴァッジョ の初めての展覧会

大盛況の様で、素晴らしい! 彼の作品は大ファンがおられるから、
スペイン・マドリッド・ツァーも増えるかもですね。


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